血塗れ将軍。

ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて

ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて

海堂尊「ジェネラル・ルージュの伝説」が書店に並んでいたので手に取る。
ジェネラル・ルージュの凱旋」がもうすぐ映画化されるのに当たってのファンブック的なものかな、と思い、書き下ろされている「〜凱旋」の前日譚である表題作の中編だけが目当てで、それ以上の期待はしていませんでした。
ところが、書き下ろしが良かったのはもちろん、作家「海堂尊」誕生以前と以後をエッセイ風に綴った年譜、自作解説と、八割を著者自身が手掛けており、満足できる一冊になっているではありませんか。

特に年譜は刺激的で、どのような経緯で病理医になられたのか、オートプシー・イマージングの着想と展開と挫折、そして作家「海堂尊」に至るという、事実は小説よりも奇なりを地で行く内容。
厚労省との裁判沙汰や文壇への疑問など、村上春樹さんの言う「卵と壁」につながる行動や発言は胸が熱くなります。
あ、京極夏彦さんと作風が似ていると言われた話も面白かった。作業過程にも近いものがあるんじゃなかろうか。

自作解説では、作品間のネガポジ関係が明らかにされてまして、おおよそ僕が某SNSの日記で書いたのと同じで少し嬉しくなったり。
「夢見る黄金地球儀」と「死因不明社会」が対になるのは、執筆時期が重なってるからなのかな。「死因」→「夢見る」への逃避(笑)。
ファンからあまり言及されていない(っぽい)「医学のたまご」と「ジーン・ワルツ」の関係にも触れられてました。
知り合いに海堂尊をオススメするときは必ず、「この二作をセットで読んでくれ!」とツバを飛ばすのですが、どっちも読んでくれた人はまだいなくて寂しい(笑)。

執筆作業の進め方もつまびらかに書かれていました。速筆で有名なのは知っていましたが(2008年は病理医をやりながら雑誌連載を四本も並行!)、処女作「チーム・バチスタの栄光」は応募するまでに手直し二十六稿を数えたそうです。
作家志望の人にも励みになるのではないでしょうかね。

ショートショートや短編を二本読み逃していたので、今年刊行されるだろう「極北クレーマー」や「外科医」を楽しみにしつつ、拾っていきたいです。

痛快な人柄に刺激され、なんだか元気が出たぞ。